紅葉狩りの幼稚園児たちを乗せたバスから、感情たちがこぼれて、道の脇の吹き溜まりに溜まっています。
大体の感情は 'たのしみ' です。
『ねえねえ、どうする?』
『バスから落っこちちゃったね。』
『お山のてっぺん、いきたいよね。』
『いきたいいきたい。』
『じゃあ、みんなでいっちゃう?』
『うん!』
『…あのこはどうする?』
一人が、少し離れたところで物憂げな顔をしている '哀愁' を指差しました。
『なんで幼稚園バスにあいつが乗ってたんだ?』
首を傾げましたが、
『いく?』
と聞くと、哀愁はこくり、と頷きました。
たのしみたちはわくわくと、とても楽しみな様子で、変わらない哀愁とともに、みんなで手を繋いで一列になって、助走をつけて、道の向こうの谷から吹き上がる上昇気流にびゅん、とのりました。
いっぺんに、お山よりはるか上まで上がり、それから手を離して、ふんわりみんなで落ちていきました。
みんな、ぶじ、お山のてっぺんの開けた場所に着きました。
『あれ?哀愁は?』
哀愁が見当たりません。
『あそこ。』
一人が指差した先、大きな銀杏の木のてっぺんに、まるでクリスマスツリーの星みたいに哀愁がいました。
相変わらず物憂げなたたずまいで…。
『ああ…』
『まあ、いっか。
あれはあれでたぶんたのしんでいるでしょう。』
園児たちより先にてっぺんに着いたたのしみたちは、ぞんぶんに紅葉狩りを楽しむのでした。
きっと、哀愁もね。
「哀愁を誘う」
11/5/2024, 1:49:11 AM