七星

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『だから、一人でいたい。』

子供の頃から争いごとが嫌いだった。ちょっとしたことですぐに怒る同級生や、つまらない事情で簡単に他人を争いごとに巻き込む友人たちから、自由になりたかった。だから私は一人でいることを好んだ。

それでも、誰とも係わらずに生きていくことはできないから、必要最低限の付き合いは我慢する。愛想笑いをしながら、最低限嫌われないような振る舞いをして、適当に相槌を打つ。

最初のうちはそれでも何とか上手くやっていけた。しかし、周囲から浮かないよう、形だけの付き合いを続けているうちに、遂に私の心は壊れた。誰とも話したくない。そんな発言を繰り返し、私は自室に引きこもった。

歩夢に出会ったのは、引きこもってから五ヶ月ほど経ったある暑い日のことだった。

「退屈そうな顔してるな。もうじき体中に苔が生えるんじゃないのか?」

埃臭い自室でぼんやりと寝転がっていた私の前に、歩夢は以前からの友人であるかのような、馴れ馴れしい態度で現れた。ミントグリーンのやや色褪せたTシャツにネイビーのダメージジーンズを合わせ、いかにもだらしない風貌なのだが、なぜか汚らしい感じはしなかった。

私はベッドから起き上がり、言い返した。

「そういう歩夢だって、全身にカビが生えたような服装してるじゃない」

「失礼な奴。お前って昔から、口だけは達者だよな」

歩夢は苦笑いすると、私の隣に腰をかけた。安心して、同時に切なくなって、私は顔を覆う。右隣から、歩夢の慌てたような声が聞こえた。

「どうしたんだよ。急に泣いたりして。落ち着けよ。俺が泣かしたみたいじゃないか」

私は顔を上げ、歩夢を見た。困ったように視線を泳がせた歩夢が、私の視線を受け止めてさらに困り顔になる。

「どこへも行かない? ずっと私のこと、裏切らないでいてくれる?」

甘えた声を出した私に、歩夢は頷いた。

「裏切らないよ。当たり前だろ。俺はずっと、千奈と一緒にいる」

そんなことはとっくの昔にわかっている。だって、歩夢を作り出したのは私なのだから。

わかっている。私は、決して自分を裏切らない友達が欲しかった。だから歩夢という存在を自分で作り出したのだ。

「ねえ、歩夢」

私は歩夢の肩にもたれかかり、言った。

「大好きだよ」

私の部屋から独り言が漏れているのを、両親は心配しているだろう。でも、もう外へ出ていくつもりはなかった。外へ出たら、私と歩夢の世界は心ない人たちに破壊されてしまう。そうなるくらいなら、私は一人でいたい。一人でいて、歩夢との世界を守りたい。

世間から、一人ぼっちの哀しい人間だと思われてもいい。もう、私は一人でいい。

一人がいい。

7/31/2024, 12:02:25 PM