【海へ】
真っ青な海に太陽の光が反射して、眩しいくらいにキラキラと輝いている。こんな景色、初めて見た。生まれ育った町は曇天ばかりで、海とは全ての命を飲み干す深淵でしかなかったのに。
「ね、すごく綺麗でしょ! ここの景色大好きなんだよね」
呆然とした僕の横、朗らかに笑った君が靴を脱ぎ捨て、白砂の上を裸足で駆け出した。旅人を名乗った可憐な女の子。しばらく僕の故郷に滞在していた彼女の語る世界は未知の驚きに満ちていて、僕もそんな世界を見てみたいという願いが日に日に大きくなっていって。結局ほとんど勢いだけで、彼女の出立についてきてしまった。
そんな僕を嬉しそうに迎えた彼女が、じゃあせっかくなら私の一番お気に入りの景色を最初に見に行こうと誘ってくれたのが、この透き通るように青い大海原。ああ、ああ、こんなにも美しい景色がこの世界にあったなんて!
波打ち際へと日焼けした足を浸し、彼女は軽やかに水を蹴り上げている。神の怒りの如き大波になすすべもなく人間が攫われることは、この場所ではないんだ。その感動に胸が震えた。
「君も早くおいでよ!」
彼女が大きく手を振る。控えめに手を振り返して、僕は鮮やかに光り輝く海へと向けて足を踏み出した。
8/23/2023, 9:56:37 PM