バレンタイン
子供の頃、バレンタインは嫌だった。毎年くれる女の子にどんな顔をして受け取ればいいのかわからなかった。好きではなかったから。
大人になると、クリスマスにはケーキ、みたいに、ただの儀礼的なものだと思うようになった。誰からでも笑顔で受け取れる。
だからといって、この日のわずらわしさが消えたわけではない。
帰り道で、細い脇道に入った。廃屋の側に寄り、周りに人影がないことを確認する。
受け取った箱から中身を取り出し、地面に投げた。すぐさま、僕の影が腕を伸ばす。拾ったチョコレートを大口を開けて影が飲み込んだ。
ふたつ、みっつ。池の鯉のように、僕が投げるのをまだかまだかと影が急かす。
今年はこれで終りだよ、と僕がいうと、影は名残惜しそうに僕の形に戻っていった。
帰宅した。夜。
真っ暗な部屋で、鞄を開けた。ラッピングされたひとつの小さな箱を取り出す。
明かりをつけずに、中身を食べ始めた。
ごめんな。これはお前にやるわけにはいかないんだ。
甘いものは苦手だ。影に気づかれる前に、ペットボトルの水で急いで流し込んだ。
2/14/2024, 10:05:14 PM