シュグウツキミツ

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消えない灯り

横殴りの風。氷の礫が容赦なく身体を叩く。もう寒いとか、そういう次元ではない。痛い。足を踏み込む度にザクザクとした感触が伝わる。膝下まで埋まり、一歩歩くだけで体力が奪われる。辛うじて覆われた程度の顔を腕で覆う。腕越しで前を見ても、白いばかりで何もわからない。
降り積もった雪と降ってくる雪とで視界は真っ白である。
だが歩くしかない。一歩、また一歩と、雪から足を引き抜いて降ろし、また片方の足を雪から引き抜いては降ろす。疲れた。痛い。しかし休むわけにはいかない。

そうして進むうちに、視界の先で赤いチロチロと揺れるものが見えた。炎の動きだ。とすると、誰かがいるのかもしれない。あそこまで行けば、この疲労から解放される。
心做しか、雪から足を引き抜くのが楽になったような気がした。

ザク、ザクと氷と雪でできた地面に足を入れる。どれくらい経ったのだろう、そうしているうちに炎が段々大きく見えてきた。近付くと、それが二本の篝火だということがわかってきた。篝火の間を覗くと、宴会が繰り広げられていた。灯りに照らされた明るい宴会場。皆酒や食べ物を楽しみ、歓談している。フラフラと入ろう、とした時に、入り口で止められた。
「いらっしゃい。あらまぁ、そんな雪まみれで。取り敢えず身体の雪をお払いなさい」
見ると細長い顔の目の細い男のようだった。柔らかな口調で話す。
雪を払うと、男は目を丸くした。
「まぁまぁ、そんな格好でこんなところまで。さぞお疲れでしょう、席にお座りなさい」
促されるまま、空いた席に腰を降ろす。
長い食卓にズラリと料理が並ぶ。あちこちで湯気が立つ。美味しそうな匂い。その時初めて自分の腹が減ったことがわかった。ぐう、と腹が鳴る。目の前の料理に箸を伸ばした、時だった。
傍らから伸びた手に掴まれた。
厶、と睨むと、傍らの女が、無言で首を横に振る。その真剣な表情に、思わず我に返る。
そうだ、俺は吹雪の中を歩いていたんだった。あんなに酷かった雪も風もここでは吹いてない。宴会なのに誰も音を発していない。そういえば、あの灯りはあの風雪の中消えることもなかった。は、と周りを見ると、みな笑顔なのに言葉を発していない。傍らの女を振り返ると、そこは、ただ白い世界だった。

「ああ、良かった、わかりますか、もう大丈夫ですからね」
雪の中から引き出される。外が眩しい。力が出ない。
見上げた空が青かった。

12/6/2025, 11:33:02 PM