千歳緑

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今日の心模様



 雨が降ると、ただ打たれる。

 捨てた故郷が雨ばかり降る所だったからか、身体が動かなくなる。
 郷愁か後悔か知らないけれど、そんな時は逆らわず雨に打たれていた。
 周りは呆れていたし、何度か熱を出したので迷惑そうな顔を隠しもしなかった。

 別に、共感して欲しいわけでもない。
 自分でも理解できない感情。

 ただ、雨音が激しいと周りの雑音も澄み切った音に変わるのが、耳に心地良かった。



 やがて、大人から一人、迎えが来るようになった。
 
 最初は傘を差し出す。俺は何も言わず立ち上がりもしない。
 痺れを切らして、荷物のように小脇に抱えて帰路に着く。

 俺は文句すら言わなかった。



 何度かそんなことがあったある日。

 そいつはいつも通り傘を持って迎えに来た。
 何を思ったのか、俺を見つけた途端に傘を折り畳んだ。
 当然、奴も濡れる。その日に限って大雨だったから一瞬だった。
 俺が何やってんの、って顔をしていると、腕を掴まれ背中におぶさわれた。
 
 嫌だった。
 子どもみたいで。
 もういない、両親にされたみたいで。
 初めて抵抗した。
 すると、そいつは嬉しそうに笑った。

「…何で笑ってんだよ」

 こんなガキに付き合って。
 ずぶ濡れになって。
 何でそんなに、笑ってるんだよ。

「嫌がらせ」

 悪びれもせず言いやがった。
 この野郎。
 せめてもの仕返しに、俺は奴の髪を思いっきり引っ張った。



 あの日以来、雨に打たれるのは辞めた。
 身体は相変わらず動かないし、雨音をずっと聴いていたい日もある。
 けれどあいつがまたあの運び方で迎えに来るなら、と無理矢理身体を動かす。

 帰る場所なんてない。
 背中に背負ってくれる両親もいない。

 けど自分で歩かないと。
 一緒に、濡れてしまう奴が出来てしまったから。



 まぁこっちが大人になってやるか。と。

 思わない、わけでもない。



4/23/2026, 1:47:53 PM