小絲さなこ

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「月明かり 夜の砂浜 誘う君」



「夜の海って、なんかよくね?」
「そうかなぁ。私は怖いけど」
「えー。もっと近くに行こうよ」
「だめだめ。絶対行かないから」

臨海学校の最後の夜は、ビーチが見える場所でのバーベキュー。
「危ないから夜の海には絶対入らないように!」と言われているし、そもそも私は海がそれほど好きではないのだ。

波はあまりにも強引で、どこか別の世界へ連れて行かれそうで……


「そんなこと言うなって」
私の手を引いて海の方へ行こうとする幼馴染。

「嫌だってば!」
「……そんな嫌かよ」

不機嫌さを隠そうともせず、への字に口を結んでいる。
いや、不機嫌になりたいのはこっちだよ。

旅行初日からの言動のおかしさを指摘してやると、彼は頭を抱えだした。

「マジか……」
「ほんと、どうしたの」
「いや、だって……俺ら、付き合って、もう一カ月じゃんか」
「うん。それが?」
「だ、だから、そろそろいいかなーあ、なんて……」
「だから、なにが?」
「な、なにがって、その……」
「……」
「……な、なんでもねーよ!」

勢いよく顔を逸らしてるけど、薄暗いなかでもわかるほど真っ赤なのがわかる。

キスしたいなら、はっきりそう言えばいいのに。



────夜の海

8/15/2024, 2:25:18 PM