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【街】

「フリーダムハーツ」。又の名を「ユートピア」。
この街は人間にとってまさに理想郷と言える場所だ。
詳しいことは知らないが、数十年前にある天才たちによって科学が急激に発展したお陰でこの街が作られ、歴史の渦に消え失せたモノから最新のモノまで、とにかくなんでも揃ったんだとか。
絶対的ルールはいくつか存在するものの、基本自由に過ごすことができる。
ここには女、酒、煙草、ギャンブルなどのあらゆる欲望を抱えた者たちが溢れかえり、昼夜問わずゾンビのように街を彷徨っている。

僕は正直この街には興味なかったのだが、数年前に偶然出会ったこの街のお偉いさんに気に入られて、この街の「掃除屋」として働くことになった。
仕事内容は至って簡単。ただ、「街のゴミを捨てる」だけ。
コレだけで1日4,5万貰える。
1番楽なのはゴミがない時で、街をブラブラと歩いてるだけで3万近く貰える。
だからやめられない。

「…あ、ゴミ発見」
目線の先にはコソコソと飲食店のゴミ箱に火を付けようとしている男がいた。
あらゆる犯罪はこの街のルールによって規制されている。
つまり、この男がやろうとしていることは立派なルール違反。
ルール違反者は「住民」から「街のゴミ」にランクダウンし、掃除の対象となるのだ。

音を消して一気に近づき、簡易拘束具で男に声も手足も出させないようにしたら人気のない場所まで連れて行く。
そして街に入る際に与えられたリストバンドの識別番号で捨てて良いかの確認を取って、もし「街のゴミ」を欲している者がいたならそこへ流す。例えば新薬の実験体とかね。

「該当なし…廃棄、だな」
昨日研いだばかりのナイフで男の首を掻っ切ると傷口から勢い良く血が噴射され、暫くするとピクピクと動いていた体も止まった。
確認後、処理班へ電話を掛けるとすぐに黒で身を包んだ動物の仮面の人物が数人現れて死体と共に消えた。

…僕らのような汚れ役がいなければこの街は成り立たない。
裏の「ディストピア」があるからこそ、表の「ユートピア」は存在できる。

僕らのような「殺人欲求」がある者にとって、「ディストピア」は自分を解放できる唯一の「ユートピア」。
まぁ、僕らにだけ与えられたルールを破れば他と同様に「街のゴミ」になるんだけどね。
殺人欲求のある異常者にも健常者と同等に扱ってくれる。存在を認めてくれる。
だから僕はこの街の虜になったんだ。

―――今日も街は、僕らの「ユートピア」は守られた。

6/12/2024, 2:18:43 AM