「ほら、あのデッカイ家。新しい家族が引っ越してきただろ。昨夜、挨拶に来たよ」
「へえ、ずっと空き家だったのにな。やっと人が入ったんだ」
「なんか、ヤバイ事件があったんじゃなかったっけ、あの家」
「強盗が入って、家族全員が殺されたんだよ。ニュースでもやってたから、よく覚えてる」
「そうだ、それだ。そんな家によく入ろうと思ったよな。事故物件じゃないか」
「どんな家族だった?挨拶に来たんだろ?」
「どんなって…まあそー言われてみると、なんか訳ありそうで、陰気なムードが漂っていたような…」
「いや、そんなんじゃなくてさ、裕福そうな一家だったか?」
「え?いや、そんなの分かんないよ。玄関で父親に挨拶されただけだし」
「父親はどんな感じだった?子供は息子?娘?」
「何だそれ。父親は…まあ普通の優しげなパパって感じかな。娘が一人いるそうだよ」
「…そうか。いや、あんな家に住もうと思うくらいだから、相当変わってる家族なんじゃないかと思ったけど、普通っぽいな」
「まあ…そうだな。そーいえば、過去にあの家に住んでいた家族も、似たような家族構成じゃなかったか?」
「ああ、そうだよ。父親は大企業の社長でさ、タンス預金の額が半端なかったんだ。それに、猫も飼ってたな。気性が荒くて、捕まえるのも大変だったけど、高額で取引される種類の猫だった」
「…おい、待てよ。なんでそんな…」
「と言っても、三毛猫のオスじゃないぜ。アシェラとかいって、日本ではあんまり取引されてない品種だとか言ってたな」
「…誰が?」
「そりゃもちろん取引業者が…」
「…ふーん。あ、そういや、家族構成は似てたけど、昨夜挨拶に来た父親は筋肉隆々でさ、なんか格闘技の有段者だって言ってたな」
「…マジか」
「ああ。だから娘にも格闘技を習わせてて、奥さんも含めて格闘技一家だって」
「さっき、陰気なムードが漂ってたって言ってなかったか?」
「だから怖いなーって。何考えてるか分かんないだろ」
「うん…まあ、別にもういいんだけどさ。じゃあ、そろそろ行くわ」
「ああ、じゃあな」
…友達の縁を切ることになりそうだ。
まさか、あいつに先を越されていたとは。
通りであいつ、近頃羽振りが良さそうだったもんな。
今度の獲物は渡すわけにはいかない。
あの、メガネの貧弱そうな父親なら、俺一人で何とかなる。
よし、今夜、決行しよう。
7/13/2025, 3:13:39 PM