冷静になることが、現実を見ることが、億劫だった。
朝、京王線の駅。
ただ、飲み込まれて吐き出されるためだけに集まって来る、人の群れ。
僕はそれを無感動に見つめる。
どこかから財布を落とした女の子が泣いている声が聴こえ、その声に、ただ『かわいそう』とだけ思った。
手には、飲みかけの缶と読みかけの本。
人が集まる場所ほど、憂鬱で、孤独だ。
僕は電車の空いた席に、気だるい眠気を守るようにして座る。
自分を閉じることに、慣れ切ってしまっていた。
他人と関わるのは、気が滅入る。
善意にも悪意にも、触れたくない。
でも、たまにそうあることに、どうしようもなく虚しさをおぼえて、涙が溢れる。
そんなことがあった後は、決まって自己矛盾に呆れてしまう。
心地よい車内の振動が、眠気を誘う。
僕は薄い膜の向こう側にあるかのような世界をただ眺めていた。
誰でもいい。
名前を読んで欲しい。
ここにいるという、実感が欲しい。
僕は、選民思想に浸ることもできず、全てを拒絶するような力も持たず、孤独だった。
2/27/2023, 1:30:53 PM