ひかり

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窓越しに見えるのは

 いつもの電車のなか。向かいの座席に人影はなく、ただ自分の姿がうっすらと映っていいる。
 その姿は自分が思ってるよりも老いていて、いつのまに自分はこうも年を食ってしまったのだろうとやるせない気持ちが溢れてくる。
「お母さん、みてみて」
 隣の席から聞こえてくる3歳ぐらいの子供の声と、それを優しく親の声。自分とは縁遠いものだけど、確かに現実であるその声は目の前の老けた35歳のおっさんが自分であるという現実の輪郭をより濃くしてくる。

 いつしか、地下を走っていた電車は地上に出て、外の景色は晴れ渡る青空に変わり、窓越しに見えていたおっさんは自分の視界に映らなくなった。地上に出た電車はもうじき職場へとたどり着く。

 自分の姿を振り返る機会なんていうのは一瞬しかない。その一瞬をポジティブに捉える人も、ネガティブに捉える人もいるだろう。ただ、どんなおっさんであってもそうではない青空の下では自分の姿なんて省みず、子供の頃と同じようにひたすらに一歩一歩踏みしめながら生きているだけなのだ。

7/2/2024, 12:55:55 AM