もう一度だけ妻に会わせてください。
そう願ったら、目に飛び込んできたのは細長い箱にしがみついて泣き崩れる妻だった。あれは棺桶だ。そして、あの中に僕が眠っている。どうやらここは葬儀場らしい。周りにも見知った顔が沢山。僕はこんなにも親しまれていたのだということを知った。なんだか嬉しいな。死んでるのに、嬉しいだなんておかしな話なのだけど。
だが、妻に会えたのは良いが当然僕の姿も声も届かない。手を伸ばしたら彼女の肩をすり抜けてしまった。失敗した。もう一度だけ妻を抱き締めさせてください、と願うべきだったか。
僕がこの場に降りたってからもずっと絶え間なく泣き続ける彼女。ごめんよ、と声をかけてもそれは届かない。本当にごめん。こんなふうに悲しませてしまって。もう何も届けられなくなってしまったけど、これからはずっと君の未来を空から見守っているから。君が僕に与えてくれたいろんな物のお返しに、君に安全な日々が続きますようにと願うよ。そうすればきっと、小さな悪運は寄ってこないはずだから。
別れはいつか来るものだ。けど、僕たちはそれがあまりにも早すぎた。やり残したことなんてありすぎて、挙げだしたらきりがない。未練なんてタラタラさ。
だけどね。
本当に感謝してるよ。最期は“もっと”“ずっと”ああしたいこうしたいを嘆くより君にありったけの感謝を伝えるよ。とは言っても声が届かないんだけど、感じてもらえたら嬉しい。
どうもありがとう。君は僕の最高の妻だった。
音にならないけど渾身の力で叫んだ、瞬間、周りが眩しくなった。続けて降ってくるやわらかい光。そろそろ時間らしい。さよならは言わないでおこう。もしかしたら、またいつか、君の前に出てこられるかもしれないから。その日が来る頃には君の涙する日が減っていますように。
10/16/2023, 12:24:17 PM