三日月

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冬晴れ

 仲間外れ……それは何処にでもある話。

 虐めなんて何処の世界に行っても無くならない。

 社会に出たら無くなるのかと言ったら、そんな事も無く、寧ろもっと悪質だったりする。

 |野乃花《ののか》は小学生の頃は友達を大事にすることの出来る普通の優しい子だった。

 けれど、中学でテニス部に所属してからは先生からも褒められる程人に優しく出来る子だった筈なのに、野乃花はとても変わってしまい、部活内での仲間外れに参加するように·····。

 元々、部活内での仲間外れは一人一人順番のようにぐるぐる回っていて、其れに対して逆らうと、先輩からもっと酷い仕打ちを受けるのを知っていたので、どうしようもない状況であったのは事実だった。

 本当に自分がしたかった訳では無いのに、従うしかなく、嫌われたくない思いから仲間外れに参加している状況だったと思う。

 ところが、一年が終わりに近づいている冬休み中の部活でのこと、あれは、明るく澄んだ冬晴れの日だっただろうか、木枯らしも無く、昼間暖かい陽気の中で皆で楽しく部活をしていたはずなのに、気が付けば今度は野乃花が標的となり皆から無視されるようになっていました。

 それまでは、野乃花自身が虐めに参加していても何も感じることが無かったのに、この時いざ自分が虐めの対象となり、仲間外れにされる側になった途端凄く辛くて、死にたくなる程にまで追い詰められたのは言うまでもありません。

 野乃花自身率先して行った訳ではなくても、言われるがまま虐めに参加してきたのだから、自業自得と言われても仕方ないのでしょう。

 でも、こんなにも辛い経験をしたからこそ人を傷付けてきた自分が許せなく、その時の事を後悔ばかりするようになりました。

 そしてその気づきがあったお陰で反省することが出来たのだと思うと、これは感謝なのかもしれないのでしょうが、当事者である乃々華はそんな日々に耐える力が無く、人間不信になり部活を辞めてしまったのです。

 それからは学校も休みがちになり、気づけば学校にも行かなくなっていましたが、二年生になると修学旅行が待ち受けていて、担任の先生から一緒に行こうと誘いが来るようになりました。

「行きたくないのでほっといて下さい」
「大丈夫だよ、皆気にしていないから」

 何度先生に伝えても、先生は皆気にしていないと引き下がることなく、度々家に訪問までしに来たのです。

 時々学校に行くことがあったけど、周りで笑ってる声を聞くと、どうしてもそれが野乃花自身のことで笑ってるのだと思えてしまい怖くて怖くて仕方ないのです。

 気にしてないと言われても、その言葉は野乃花には響きませんでした。

 ところが、二年生の冬晴れのある日のこと、自宅まで幼なじみの|谷口優太《たにぐちゆうた》がやってきたのです。

「あのさ、修学旅行で行動する班だけど同じ班になったから……」
「えっ、だって、修学旅行に参加しないって先生には伝えてる筈だけど」
「皆気にしてなんかいないよ、それに僕は気にしたことないし、野乃花と一緒に思い出作りしたいって思ってるから絶対来いよな!  バスの席も一緒にして貰ったから心配要らないよ」

 優太は冬晴れのようにとても優しく、暖かい言葉を言ってくれたのだった。

 それからは、野乃花の頭の中には優太が言った「気にしていない」と「思い出作り」の言葉がぐるぐる駆け巡るようになっていき、行かないと決めていた修学旅行に参加することに。

 するとその日、泊まりで同じ部屋になったグループの子達と仲良くなり友達ができたのです。

 それからは、友達も出来たので学校に行くのが楽しくなり、毎日心の底から笑える日々が戻りました。


 冬晴れでの出来事は野乃花にとって人生でとても良い経験となり、毎年冬晴れの日になると、澄んだ空に向かってこう叫んでいます。

「もう二度と虐めはしない!」

――三日月――


――社会人になってから――

 野乃花は冬晴れのように暖かく包み込んでくれる優しい優太と結婚しました。

 でもその話はまた今度機会があれば……。


1/5/2023, 2:45:22 PM