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▶81.「明日に向かって歩く、でも」
80.「ただひとりの君へ」
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1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
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〜人形たちの知らない物語〜

(これは、時限式か。発動には…まだ余裕がありそうだが、完全に同期させなければならないな)
サボウム国王の作った術具『ワルツ』の複製作業は、
____にとって大変に難しいものであった。


(こっちが…術の範囲設定。城の中ならどこでもいいようなことを言ってただけあって、かなり広いな)
読み取れた術式は書き出していく。段々とメモが積み上がっていく。

(その辺にある術具の効果範囲なんて、1人分か大きくても部屋ひとつだぞ?)

範囲が広くなれば、比例して効果は薄れていく。
それが術具の常識だ。それを防ぐ術式もあるが、術式が増えれば機械の部品も増やさなければならない。技術が足りなければ噛み合わせが悪くなったり、サイズが大きくなったり。サイズが大きいほど未熟と言われるため、ほとんどの術具師は、効果範囲を狭めて効果を高めているのだ。

「共鳴石か…フランタ国のとセットなんだろうな。仕方ない、これを割って使おう」


あの王は、本当に規格外だ。

(これを複製できたとして、そもそも王に効くのか?)

明日に向かって歩く、分かっていても、でも不安は尽きない。


(肝心の効果に関する術式は、やっぱりこれだろうな。なんて小さい字だろう)
仲間のためにも早く完成させたいが、失敗しては元も子もない。

睡眠を削って解析に費やし、それでも何日もかかった。


「この術具は、ヘタしたら私たちにも有効だな」
その成果が書かれたメモを見ながら、____は独りごちた。

深夜で部屋には自分以外に誰もいない。
仲間に言わないという選択肢はないと思いつつも、ため息が勝手に出る。
ちら、と『ワルツ』に視線を送ったが、
人工涙を使っていない今、あの美しい術式は見えない。


(時限式で発動し、『ワルツ』同士で共鳴し合って、特殊な波長を生み出す。それを浴びると術にかかり、共鳴石が呼び合って出来る中間地点に集まる。波長の有効範囲は大抵の城が入る程の大きさ。さらに、判断力を低下させ闘争心を高める…)

「要は2国のトップが狂ってボコボコやり合っているところを美味しくいただくって魂胆か。この術具ひとつで…化け物じみてるな」

(しかし、そんなにうまくトップが城に揃うだろうか?そこは一時停戦なり介入すればいい話か。要は発動時間中に城へ入れさえすればいいんだから)

なんの因果か、互いの城は距離が近い。
戦術よりも新しく開発した技術を使いたい奴が強いのだろう、戦況もグダグダだ。
「王は、痺れを切らしたのかもしれないな…いや、どうでもいいことだ」

ひとつ頭を振り、気持ちを切り替える。

この化け物じみた術式が、自分たちにも牙を剥くかもしれない。
そんなことを聞かされて、それでも計画を進められるだろうか。
大事なのは、そこだ。

王を倒そうとしている____たちの志が問われる。

「あいつらなら、やるだろうな。私も心して掛からなければ」

翌日、部署に出勤してきた仲間たちに解析結果を話した。
『ワルツ』の効果の強さに衝撃を受けていたが、
計画を中止してしまっては、
自分たちの技術を悪用し国民を人体改造して兵に仕立て上げている王も、戦乱も止めることはできない。

「では、作業を続行するということでいいな」
「ああ、頼んだ」

解析が終われば、あとはそれに沿って作り出していくだけだ。

今日も完成しなかった
あとどれだけ時間が残っているだろう
急がなければ

焦る心を抑えつつ丁寧に迅速に。
言うほど簡単な作業では無かったが、____は溜まった疲れを無視して進めていった。

そして、とうとう『ワルツ』の複製に成功した。
技術棟に入ってからひと月が経っていた。
____はオリジナルを仲間に託し、また荷物のフリをして荷馬車に乗り込んだ。
窮屈さも忘れて泥のように眠り込む。

何度か乗り換えながら、自分と入れ替わり先行している仲間の元へ急ぐ。
目的地が近づくにつれ、自分のやっていることの恐ろしさに悪夢を見るようになり、次第に____の眠りは浅くなっていった。

それでも、やらなければならない。
サボウム王の計画に便乗して、まずはイレフスト国に潜入する。

イレフスト国内にも戦乱に不満を持つ者が、きっといるはずだ。
先行した仲間が探してくれている。
うまく自分たちのような、利益や欲望のためではない平穏を取り戻すために動いている組織が見つかれば。
『ワルツ』の発動後、スムーズに戦乱を終わらせることができるかもしれない。

フランタ国にも、同じように仲間が向かっている。

もう、後戻りはできない。


私たちは明日に向かって歩く、でも、それによって傷つく者たちが、
場合によっては歩みが止まってしまうような者たちが出てくる。
決して、それを忘れてはならない。
傲慢な考えでいては、あの王と同じになってしまうのだから。

1/21/2025, 8:57:06 AM