夜明け前、というタイミングに出会えることは少ない。だいたいは寝ているし、もし会おうとするなら意図的に、私の場合は目覚まし時計でもかけなければいけないのだが、最近は冷えか、はたまた歳のせいか、トイレに起きることが多々ある。
まだ日の昇らない、動物達がひっそりと息を潜めているあの静けさが好きだ。薄ら寒い、きりっと引き締まった空気も好き。暗いけれど仄かに、もうすぐそこに、朝の気配が迫っている。そんな静寂の中に人工的な光を入れるのが嫌で、私はいつも一階のトイレまで電気をつけずに行き、二階のベッドに戻るまで、薄暗い室内を歩くことになる。
カーテンに指をかけてほんの数センチだけ開くと、空は半分以上が深い闇色で、まだ眠っていられるとほっとする。しかし東側はもう白み始めて稜線がくっきりと見えている。そのさまが美しいのでぼけっと見つめてしまうのだが、そうしていると時計の針がどんどん進むので、私は慌てて布団にもぐりこむ。
ずっと夜明け前ならいい。
大気と植物と自分の気配しかしないあの寂しさが好きだ。
言い様のない懐かしさがこみ上げて、胸がきゅっとなるあの瞬間が好きなのだ。
▼夜明け前
9/14/2023, 2:34:46 AM