かたいなか

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最近、ページを「更新する」ことの方が、
「めくる」ことより多くなった物書きです。
「巻き戻すって、なに?」のように、いつかページをめくる行為も、意味を後輩・子供に聞かれる日が来るのかもしれませんね。
と、いうハナシは置いといて、さっそく今回のおはなしのはじまり、はじまり。

最近最近の都内某所、某不思議な稲荷神社に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしておりまして、
その内のお父さん狐は、都内の病院の漢方医。
人間に化けて、都内在住の人間だの人外だの、あるいは別世界からの渡航者だのに、
漢方を処方したり、診察室でこっそりハーブティーと偽って、狐の薬をくれてやったりしました。

ところでその日は、別の世界から来たカフェインジャンキー、もとい、カフェインダイスキーが、
カフェイン依存症の治療のために、お父さん狐の診療室を受診予定。

『受付番号55番の方、受付番号55番の方。
診察室5番へどうぞ』
お父さん狐はアナウンスをかけて、カルテデータを用意して、患者さんを待ちました。
別世界出身の患者さんは、世界線管理局という厨二ファンタジー組織の法務部に所属しており、
ビジネスネームを、ツバメといいました。
「こんにちはツバメさん。調子はどうですか」

ここからが今回のお題回収。
というのもお父さん狐、このカフェインドランカーもとい管理局のツバメに、
いつカフェインを飲んだか、どれだけのカフェインを摂取したかのカフェイン日記を、
紙媒体、アナログで、付けてもらっておりまして。

「さあ、ツバメさん。
先月分のカフェイン日記を、見せてください」

「あー……すいません、実は、忘れてきまして」
「ほう。忘れてきた」
「職場の机に置いてきました」
「なるほど置いてきた」
「今のところ、離脱症状は」

「稲荷狐をナメてはいけませんよツバメさん」
「え?」

パラパラ、ぱらぱら。
漢方医のお父さん狐、ツバメが「忘れてきた」と自己申告した日記帳の、ページをめくる、めくる。
「どうやって持ってきたんです、先生!?」
「稲荷の秘術です」
パラパラ、ぱらぱら。
ツバメに「コーヒーをガブ飲みしたいなら、カフェインレスやデカフェで」と何度も言っておったお父さん狐、日記帳のページをめくる、めくる。

「一部、飲んだのに記載していないコーヒーが存在しますね。ツバメさん」
静かな声してお父さん狐、ツバメに言いました。
「稲荷狐にウソをつくとどうなるか、
稲荷狐に立てた誓いを破るとどうなるか、
身をもって、知りたいですか、ツバメさん?」

あ。詰んだ。
ページをめくるお父さん狐の、静か過ぎる声を聞いて、カフェイン教徒もといカフェインダイスキーのツバメは観念しました。
そうでした。ツバメが受診しておるのは、医療従事者である以前に、タタリが恐ろしい、狐でした。

稲荷狐は何でも知っています。
稲荷狐は怒ると怖いのです。
稲荷狐の前で立てた誓いを破ると、怖いのです。

「すいませんでした」
ツバメは秒で、謝罪しました。
「私の心が弱かったのです」
なにも、言い訳をしませんでした。
ただ自分の非だけを認めました。
「今後二度と、未記載はしません。
ありのまま、飲んだままを、デカフェもハイカフェインも、すべて、記入します」

「そうですか。分かりました」
ページをめくる作業をやめたお父さん狐は、ツバメの真剣な謝罪を、一度は受け取ることにして、
そして、ツバメを一度だけ、許しました。
「これから一緒に、また、頑張っていきましょう」

それからツバメとお父さん狐は、
数分くらい話をして、
お父さん狐が「カフェイン断ちのお守り」と称してモフモフ狐のぬいぐるみをツバメに贈って、
それで、ツバメの診察は終わりました。

『受付番号58番の方、受付番号58番の方。
診察室5番までお越しください』

カフェイン断ちの日記帳の、ページをめくる漢方医コンコンのおはなしでした。
カフェイン断ちしかり、酒断ちしかり、アナログの日記帳に記録をつけて、時々ページをめくるのは、
実は意外と、効果があるとか、個人差とか。
以下略、以下略。おしまい。

9/3/2025, 6:13:31 AM