長い長い旅路の果てに、魔王城に辿り着いた。
「よく来たな、『勇者』」
書斎のような部屋の中で、豪奢な椅子に座っていたのは人間の男だった。
「……久しぶりだな、『魔王』」
世界中から『魔王』と呼ばれるその男は、俺のかつての友人だった。
深い悲しみに打ちひしがれて、男は『魔王』に成り果てた。
それをただ見ていただけの俺は、あのとき止められなかったくせに、今や『勇者』なんて担がれてこの場所に立っている。
「お前が来るのを、待っていたよ」
そう言って『魔王』は、そっと剣を差し出した。
「もう疲れたんだ」
「……」
『勇者』は静かに、『魔王』を討ち果たした。
◇
魔王城を出ると、空を分厚く覆っていた黒雲が晴れていくところだった。
こんなところでも花は咲くらしい。
ふと見ると、故郷に咲いていたものと同じ花が、静かに風に揺れていた。
『旅路の果てに』
2/1/2024, 4:10:47 AM