『貝殻』
海を見ると、いつも胸が押し潰されそうになる。
理由は分からない。あの世界的な水害が起こった時、自らの資産をなげうってまで被災者を助けなければいけないと思ったことと関係があるのだろうか。いくら考えても答えは出ないので、とにかく一人でも多くの被災者を救うため、私は世界中を回った。
時折こうして浜辺に来て自問してみるが一向にその理由は分からない。
私は海岸線に沿って浜辺を歩く。寄せては返す波の音が私の心を鎮める。不思議と、海は嫌いではなかった。
ふと足元を見ると、貝殻が落ちていた。私は屈み込みそれを拾い上げる。虹色の美しい巻貝だった。それを見て、ある魚を思い出した。浜辺で傷だらけになって息絶えていた、虹色にまばゆく光る美しい魚を。
貝殻を耳に当ててみる。波の音と共に、少女の笑い声が聞こえた気がした。私は理由もなく悲しくなり、その場にうずくまって泣き続けた。
9/6/2023, 12:11:36 AM