小音葉

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調子外れの風鈴
釣られて音痴な蝉時雨
気まぐれな雷に浮き立った幼い日のこと

縁側を滑る汗ばんだ頬
畳を踏む音に耳を澄ませば、差し出される赤い果実
手足も膝も濡らしながら頬張って
種を飛ばして競った午下り

滲むような斜陽に刺されて揺らぐ
目を閉じても世界は回る
咳き込むようなトラック、軽快に鳴くブレーキ
寝転がる車輪が回り続けて
素知らぬ顔で蜘蛛と蜻蛉が通り過ぎる

夜の帳が下りたなら、花開く光に胸踊る
千変万化の彩りに永遠を願い、瞬く美を知る
叫んで掠れた喉を潤す甘い炭酸に
見えない糸を繋いだ気になって、俯きながら微笑むんだ

そんな日々などありはしない
初めから幻、たちの悪い夢
作り物の風を浴びて、ぬるい心を騙して眠る
幼い私は綴じられたまま、張り付いた笑顔で錆びていく

(夏の匂い)

7/1/2025, 10:28:19 AM