芝野郎

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窓を抜けて照りつける日差しを遮る為に、分厚い遮光カーテンを引く。途端に部屋は薄暗くなるが、俺には此れが一番居心地が良い。外は如何にも暑そうで、引き篭る事に慣れてしまった身体には毒の様なのだろう。
のそりのそりと布団に包まると、欠伸が一つ。漸く眠気が来たらしい。昨晩は、病院から処方された半錠の睡眠導入剤を飲み下しても全く眠れず、暫く布団の中で携帯端末を弄っていたが、そのうち諦めて適当にパンなど食べながら本を読んだ。薄い文庫本だったので2時間か其処らで読み終わってしまい、その後は少しばかりゲームをして、飽きて、今度は座椅子の上で携帯端末を眺めた。特に何が見たいと云う訳でも無く、只々呟きを親指の腹で流し続け、そうして気が付いたら昼前になっていた。

俺には仕事が無い。と云うより、自ら辞めてしまったのだ。特段ブラックだとか、人間関係のいざこざがあった訳では無い。安月給ではあったしグレーな部分はあったが、それなりに良い職場だった様に思う。では何故か?簡単に言えば、疲れてしまったのである。
俺は、四半世紀と数年ばかり生きてきたが、人とは少しばかり違うらしい。幾分か疲れやすく、ストレスに弱く、暑さ寒さや湿気にも弱い。病気では無いが、如何にも所謂「普通」の人間と云う奴の生活が、些か難しい様で。それなりに仕事も出来、怒られる事は滅多に無く、忘れ物や遅刻も殆ど無い。けれど、如何してか生き辛いのだ。いっそ何か大きな病気だったり、障害があれば……と思うが、当人からすれば楽では無いだろうから、そんな考えに至る自分に嫌気がさす。
死にたいなどと思った事は無い。然し、毎日寝付きが悪くて、眠れなくて困る。鬱では無いし、パニックも無い。けれども何故か、夜になると身体の中がぐるぐると渦巻いて、冷たくなる様な感じがしたりしていけない。「普通」とは何だろう。自分を守る為に仕事を辞め、無為に時間を過ごす俺は、逃げたのだろうか?甘えているのだろうか?それとも?

嗚呼、瞼が重い。また厭な考えが脳味噌を掻き回す前に、寝てしまおう。此の眠気に身を任せて、沈みきってしまおう。
コップの水を一口飲んで、俺は目を閉じる。カーテンの隙間から差す日も、直ぐに気にならなくなった。

7/2/2023, 3:10:05 PM