『たとえ間違いだったとしても』
「たとえ間違いだったとしても、僕はこれが良い」
僕はきっぱりと言いきった。
きっと何年たっても後から後悔することはないと、僕は確信している。
貴方はそんな僕に困惑していながらも、微笑んでくれた。
「ありがとう」
「そんなの、こちらこそだよ」
貴方の左手薬指で誇らしげに輝く、僕の渡した指輪。
貴方が僕の左手薬指にくれた指輪を見る。
相変わらず、第一関節までしか入らずに、そこで輝いていた。
「もともと僕はあまり指輪をしないからね」
「そうだね」
「チェーンか何かでネックレスにでもするよ」
内側に彫られている、僕と貴方のイニシャル。
貴方がたくさん悩んで、僕に似合うと選んでくれたデザイン。
そんなの、世界でたった一つこれしかない。
だから僕はこれがいい。
「じゃあそのチェーンもプレゼントするね」
「うん、楽しみにしてるよ」
些細な約束。
でもきっと果たされることはないことを、お互い心の何処かではわかっていた。
「そのためにもはやく病気治さないとね」
「うん、そうだね」
医者には余命三ヶ月だと言われた。
本人にも告知している。
だけどお互い、それからその事には触れていない。
貴方は一度だけ僕と別れようとしたけれど、僕はそんな貴方に指輪を贈った。
死が二人を分かつまで一緒にいる、言外にそう伝えたかった。
「ごめん、ちょっと疲れちゃったから眠るね」
「うん、おやすみなさい」
そう言って貴方は病院の硬いベッドに横になる。
まもなく寝息が聞こえてきた。
穏やかに眠れていることに安心し、僕はそっと呟いた。
「たとえ世間がどんなに間違いだって言ったって、僕はずっと一緒にいるよ、兄さん」
4/22/2024, 1:08:30 PM