ゆかぽんたす

Open App

「え、そう……なの?」
好きだと伝えたら、彼女の第一声はこれだった。表情もびっくりしていた。いつもの柔らかな瞳は今はこんなに真ん丸く見開かれている。まるで僕を何か違うものを見るような目で見ている。そんなに驚くことだろうか。これまで僕はキミを何よりも第一に考えて行動してきたつもりだ。キミを差し置いて優先すべきものは無いから。いつ何時もキミが1番だった。なのに当の本人にはそれが伝わってなかったらしい。キミのその驚いた顔を見て、それが分からされた瞬間だった。
「その、正直そーゆうふうに見てなかったから」
「なら、どーゆうふうに見てたっていうの?」
「それは、」
言葉を切って彼女は考え込む。考えてしまうような位置づけなのか、キミにとっての僕の存在は。キミの人生のなかで僕は居ても居なくてもさして困らない人間だということなのか。あまりにもショックだ。見返りを欲しがるつもりはないけれど、これはあまりにも酷いんじゃないか?そう思ってしまった時は既に、キミへの愛が盲目になっている証拠だった。一歩彼女へ近づいた、のち、その腕を掴み引っ張りこむ。小さな悲鳴が聞こえた。でも、それも全て抱き締めてしまおう。今まで我慢してきたけど、キミの態度がそんなんじゃもう我慢する必要ないだろう?
相変わらず抵抗する彼女を強く腕の中に閉じ込めた。これでもう身動きはとれない。
「……どうして、こんなこと」
「どうして?」
何てことを聞くんだろうか。これでも僕の愛は伝わらない。それどころか逃げようとするなんて。
でも本当はなんとなく感じていた。好きだと言っても抱き締めても、キミは僕のほうを振り向いてくれないんじゃないかって。だから僕は今日までずっと言わなかった。終わってしまうのが怖かった。そもそも始まってすらいなかったのに。
こんなことしてキミを怖がらせた以上もうキミには会えなくなるだろう。それを思うとこの腕を放したくない。キミに愛されたい、と思ってしまった僕のエゴを、キミごとこのまま腕の中に隠してしまいたい。もう二度と、好きだなんて言わないから。キミを困らせる言葉を発さない代わりに、あと少しこのままでいさせてくれないか。

8/30/2023, 2:37:27 AM