昔好きだった男が住んでいたけれど、ついに連れてきてもらえることのなかった北千住という街を、何年か経って初めて訪れた。
当時どんな気持ちがあって彼と自分とを天秤にかけたのか覚えていないけれど、彼がいなくなったことだけは何年経ってもずっと消えずに残っている。
ふと迷い込んだ北千住の歓楽街は寂れていたけれど、呼び込みの女たちはそれぞれに鮮やかな春の服を着ていた。
きっとこの街には四季などなく、何十通りもの春が気ままな風に乗って年中を巡っているのかもしれない。
桜の春があり、藤があり、つつじ、バラ、梅、たんぽぽ、etc...
今日はどの春風に煽られて男たちは束の間のハメを外すのだろう。
落ちこぼれた歓楽街の隙間にて、春の花のように揺れる女たちの並びは、素人が無骨に手作りした花束みたいだった。
私の居場所のないこの街に少しばかり後ろめたい気持ちを残して、居場所とも言い難い暮らしの街へと帰路に着く。
お題:花束
2/10/2024, 1:59:21 AM