夜空の音

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心の深呼吸

息が吸えない。
そう感じたのは、いつからだっただろう。
酸素が足りず、頭の回転も悪くなったように思える。出来ることが出来ないことになり、その数が増えるにつれて、余裕を失った。必死に、必死にもがいて取り戻そうとした。でも、取り戻すどころか手からこぼれ落ちる。
気付けば、私の手には何も無かった。

何も持たない手では、何も感じない。
喜び。悲しみ。憂い。怒り。切なさ。楽しみ。憤り。
何も感じない。
全てを失った私は、海の上の崖へやってきた。
冷たく鋭い風が頬を刺す。
勢いのある風は身体にめぐり、気持ちいと思った。
もっと空気を。
そう求めて身を乗り出すと手が滑り、崖の下へ落下した。
重力に導かれるままに落下した私の肺には、入り切らないほどの空気が入ってきた。
大きく吸い、大きく吐く。
私はやっと息をできた。

11/27/2025, 10:33:10 AM