るね

Open App

【太陽】


勇者を召喚するという大掛かりな魔法で喚び出されたのは、まだ幼げな少女だった。
国王陛下も宰相閣下も屈強な男を期待したのだろう。不安そうな表情の少女を見て、召喚は失敗だと落胆していた。

それでも。何かの間違いで強い力の持ち主である可能性が捨てきれない。少女は戦場に連れていかれることになった。
「アルヴィン。お前は明日からあの『勇者様』の護衛だ」
そう指示されて、正直面倒だなと思った。

か弱そうな少女だった。肌は白く、身体は華奢で、武器など持ったこともないだろう。案の定、木剣を持たされた姿は見ていられるものではなかった。

結局、戦い方など身につかないまま、少女は戦場に立った。
ただ、魔法を使うことならできたらしい。少女は震えながら魔物を屠り、直後に泣きながら吐いた。私はその背中を擦ってやり、口をすすがせた。肉の薄い、細く頼りない身体だった。

少女の魔法は珍しいものではあった。けれど、そこまで強力ではないと見做され、やはり『勇者』ではないと結論が出された。

城に戻ってからの少女は塞ぎ込んでいた。
毎日「帰りたい」「友達に会いたい」と嘆き、食も進まない様子。
あまりに気の毒で放っておけなかった。
私は家族に手紙を書いた。私のことは死んだと思って絶縁して欲しい、と。

少女を攫って逃げるつもりだった。それがどんな罪に問われるかわからない。家族には迷惑をかけるだろう。
しかし、実際には少女が城を追われる方が早かった。私はその場で騎士を辞め、少女のあとを追った。

「私にあなたを守らせてください」
私がそう言うと、少女は理解できないという顔でこちらを見た。
「……なんのために?」
「わかりません。ただ、あなたのような人が無理やり戦わされることを是とする職場に嫌気が差しました」

少女は一瞬きょとんとして、それから声を上げて笑った。初めて見た彼女の笑顔は太陽のように眩しかった。

「私はアルヴィン。アルと呼んでください」
「私はヒナタ。よろしくね、アル」
陽のあたる場所という意味だと聞いて、相応しい名前だと思った。

二人で過ごすうちに、ヒナタが神の加護を持った正式な勇者であることを知った。彼女の魔力量は増え続けているらしく、段々化物じみてきている。収納魔法まで使えるおかげで、旅は快適だ。

しばらくして、やはり彼女こそ『勇者』だったと、城の連中が手のひらを返した。
勇者を追い出したというのは外聞が悪いのだろう。今では私がヒナタを誘拐したということになっている。

「またアルの手配書だよ。相変わらず似てないなぁ」
ヒナタが剥がしてきた紙には、どこの蛮族かと思うような凶悪な顔が描かれていた。これが私だと言われるのは複雑だが、結果的に逃げ切れているので、これでいい。

「そろそろ移動しようか」
「この町には飽きましたか?」
「そうじゃないけど。東の遺跡に『聖剣』があるって噂を聞いて」

あんな仕打ちを受けたのに、ヒナタは勇者であることを辞めようとはしない。いずれは魔王を倒すつもりでいるようだ。
やはり眩しいと私は思う。




─────────────

前回のお題【鐘の音】の逃亡勇者と元騎士、元騎士視点

8/6/2024, 1:16:48 PM