お題《終点》
どんな美しい物語も永遠ではない。
――淡い花が水面を覆う、まっさらに。
車窓からそれをなんとなく見つめる。現実で過ぎ去るのは一瞬だが、心の車窓から見る風景は、長い長い微睡みの中を揺蕩っているようだ。
三日月さんといった花見の、あの池に浮かんでいた花たちに似ている。――花なんてみんな一緒じゃん、って声が画面の向こう側から聞こえてきそうだが、人と同じ――生きているものたちにはみんな《個性》がある。
満開の淡い花の下に敷物を広げ、三日月さんがバスケットを開くとおとぎ話に出てくるような夢物語が、そこには詰まっていた。
黄昏森の林檎、それから雪豚とトマトのチーズサンドに、月灯りのカスタードパイ、グレープフルーツとハーブのサラダ。三日月レモンとオレンジのクッキー。
傍らにはポットに入った月灯りのレモネードティー。
「さあ召し上がれ。朝から早起きして、キッチンに立ってたら、妹がちょっとうるさかったけどね」
三日月さんはそう言って、笑う。
この日見た笑顔は、美しかった。
でも三年目の冬の月――彼は遠い国へ旅立った。
彼は最後まで――私に、嘘をついて。
その嘘を知った時、涙が海となる。
もう、あとには戻れない。
この物語の先に、美しい結末はない。
8/10/2022, 11:39:07 AM