足音
人生ずっと悔い改めて生きていきたい
もっと大事にすればよかったって、もっとあの時間とあの場所とあの関係性をちゃんと大切にすればよかったって
喋り方、言葉遣い、表情筋の動かし方、手の動かし方、歩き方、立ち居振る舞い全部改めて
そうして「別人みたいだね」って言われたら
私は「そうかな」って笑ってみせる
貴方が望むように振る舞いたい
貴方が望むように振る舞いたかった
どんな風にすれば貴方の好みか知ってる
ねえこの喋り方が好きなんでしょ
ねえこんな言葉のチョイスが好きなんだよね
ねえこの笑い方が好きなんでしょ
ねえこんな仕草が好きなんだよね
ねえこの足音が好きなんでしょ
ねえ私が好きなんだよね
ねえもっと、今ならもっと理想通りになれる
私の理想通りになれる
人生ずっと悔い改めて生きていきたい
■■
私のことを推しだと言い出した人がいる。同い年で同性の子。「癒やし」「世界一かわいい」「天使」だって、オタク特有の誇張表現をしてくる。ベタベタに甘やかしてくる。その子と話しているときその子は私と握手会でもしてるのかと思えてくるくらいには私のオタクをしてた。
その時のことを思い出した。
何度も考えた。なんでそんなに好かれてるのか分からない、そういう不信感が積もって酷く吐きそうだった。そんな内心とは矛盾するように脳内では「どうやったらあの子の好みにもっと近づけるだろう」「どうやって振る舞おう」「どんな喋り方をしよう、どんな言葉遣いをしよう」と考えていた。
なんで、って言われても分からない。好かれたかった?嫌われたくなかった?幻滅されたくなかった?本当の自分を隠して「好きだ」と言うやつを見下したかった?当時も今も分からない。
どうせ短期間の付き合いだ、そのうち飽きる。そう思ってから、もう何年もその子と付き合いがある。そしてその子の前での私を見た他の友達から「別人みたいだね」と言われるのだ。
しばいてやろうか。二度と口にするなよ。お前に何が分かる!!
そんな気持ちを飲み込んで「そうかな」って曖昧に笑った。「人って誰でもAさんの前での自分、Bさんの前での自分って違うからさぁ、ペルソナってやつだよ」とそれっぽいことを言う。分かっている。私でも私の正体がつかめない。まるで別人だ。ペルソナというにはあまりにも
あの子が私を「まだ全然推し」「好き」「日に日にオタク加速していく」というのは当然だ。だって、だって、だって、ずっと悔い改めてきたから。どうやったらもっと好みになれるか考えてきた。そうやって振る舞ってきた。そうやって喋ってきた。「こうやって言ったらこの子にはウケがいいはず」と思って自分の意見みたいなものを述べて。そりゃあ、私のことを好きでいてくれないと、私が足りてないってことになってしまう。
で、それで私は本当に友達っていいんだろうか。なんて悩むことがないから、余計厄介なのかもしれない。
8/18/2025, 3:07:49 PM