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すでに廃園となった天文台は予想に反して先客がいた。

「やぁ、久し振りだね。坊や」
「もう、坊やって呼ばれる年じゃないですよ」 
「私からみれば、きみはいつだって坊やだよ」と笑うお姉さんは二十年前に見ていた姿と変わらぬ美貌を保っていて、僕と並ぶと僕の方がお兄さんに見えた。

『私は魔法使いだからね』

そう言って、星を詠むお姉さんは相も変わらず、煙に巻くような発言が多い。
だけど、大人が知らないような話を語ってくれるお姉さんが僕は好きだった。

寒い。
ダッフルコートを持ってきたと言うのに、手足は凍えるように寒い。こういう日は空気に不要物が少なくてが星が一番きれいに見えるのだと教えてくれたのもお姉さんだった。

「坊」

そう言って投げ渡されたミルクティーは温かい。すでに電気を失ったに等しいこの世界で温かい飲み物が出るのはありえない。ありえないけれど、相手は自称魔法使いだからとそういうことも出来るのだろう。

「さて、なぜわざわざこんな辺境へ?」
「明日、世界が滅ぶから」

明日、世界に巨大な隕石が墜落して、世界は滅ぶ。

予言に踊り踊らされ、会社へ来て、レンタカーでこんな山奥までやって来た僕はきっと愚かで狂った人間なのだろう。

だけど、

「どうせ、世界が滅ぶなら会社じゃないとこで死にたい」

僕の言葉に「なるほど?」というお姉さんはあまり驚いていない。

「私は世界に墜ちてくる隕石をこの目で観測したい」

お姉さんの言葉に、だろうな、と思う。星空が好きなお姉さんらしい理由だ。

「ご一緒しても?」
「もちろんさ」

お姉さんは隣へ来いと言わんばかりに人差し指で自分の空席を指し示す。
僕はお姉さんの隣に並び、星を見上げる。明日、世界が滅ぶとは思えないほどの目映い光の数々だ。

「ねぇ、坊や。賭けをしよう。明日、まだ世界が残っているかどうか」

いたずらっ子のような顔をして微笑むお姉さんに僕は苦笑する。

「そんなの賭けにならないよ」

お姉さんは『魔法使い』なのだから。

12/1/2025, 11:53:40 AM