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友達


小さいとき、鏡の中には友だちがいた。
自分とまったく同じ姿形をしているのに、どこか別人に見えたその子に自分と似た名前をつけた。
その子と話している間は楽しくて、一人でいても寂しくはなかった。
ただ、寂しさをまぎらわすためのその友だちはいつだったか忘れてしまったけれど、鏡の中からいなくなってしまっていた。

人はそれをイマジナリーフレンド(空想上の友だち)と呼ぶ。
空想上の友だちだなんて、危ないんじゃないか、と思う人もいるだろう。しかし、実際には何も危ないことはなく、むしろ正常な現象なのだ。
イマジナリーフレンドは子どもの心の支えとして、存在し、やがて消える。発達の段階で起きる正常な現象であり、多くの子どもは人の姿をしたイマジナリーフレンドを持つが、動物や妖精といったさまざまな姿形をしたイマジナリーフレンドを持つこともあるのだと言う。

今でも鏡を見ると少しだけその子のことを思い出す。どんな話をしたのか、何をして遊んでいたのか、思い出せはしないけれど。
もう二度と会うことはないし、話すこともできないけれど、確かにそこに友だちがいたんだ。

10/25/2022, 1:10:32 PM