"何でもないフリ"
早朝の散歩、今日は開院が少し遅めなので少し遠くまで足を伸ばしてみた。
花壇や草木の上に、薄らと雪が積もっている。
「寒くねぇか?」
「みゃう」
自分の数歩前を歩く子猫を見る。
聞くまでもなかった。寒さより興味が圧勝しているようで、ずっとスキップをしているように足取りが弾んでいる。
その上、こちらを全然見ない。
──人間の子どもと変わんねぇな。
ふと微笑ましさと可笑しさが込み上げてきて、思わず「ふふ」と小さく噴き出してしまう。
「みゃあ」
俺の笑い声に反応して、鳴きながらこちらを振り向いた。
「何でもねぇよ」
そう答えると、子猫を抱き上げて両腕で抱える。
「そろそろ足が寒ぃだろ。帰るぞ」
「んみぃ」
一声鳴くと喉を鳴らして、胸に頬を擦り付けてきた。
──前より確実に重くなったなぁ……。
「んみぃー」
俺の心を読んだかのように、荒げた声で鳴く。
「何でもねぇって」
慌ててはぐらかす。今爪を立てられたら、位置的に確実に喉元を引っ掻かれる。
そんな所を猫の鉤爪で引っ掻かれたら……。想像するだけで、ホラーやお化けを見た時や驚かされた時と同じような──身体中の熱が引いていくような──感覚になる。
子猫の背を手の平で優しく撫でる。
すると機嫌が戻ったのか、再び喉を鳴らした。
「ほ……」
安堵の息を漏らす。
──体も確実に大きくなっている。触った感覚も筋肉質で逞しい。
こうやって体を撫でる事は、最近あまり無かったので驚く。
だが同時に、嬉しさも込み上げてきた。
──たくさん食べて動いて、もっと大きくなれよ。
ゆっくりと帰路に着きながら、子猫の体温を手の平に感じながら背を撫でた。
12/11/2023, 12:02:38 PM