名無しの夜

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 夢を、見た。


 そこは暑くもなく寒くもなく。

 生きていれば自然と欲する物は何でも手に入り。

 その穏やかさゆえに、心は凪いで。

 余計なことを感じることもなく、ただただ優しい時間の流れに身を委ねられる——


 そんな、場所にいる夢、だった。


 いやにリアルで。

 日々に疲れきっていたその者は、夢に見た場所を探してみようと、旅に出た。


 夢で体感した風土をひたすらに探し求め。

 少なくない歳月を賭して。

 ようやく此処、という場所に辿り着いた。


 気候や雰囲気は、確かに夢そのものといえる場所だった。


 しかしそこは何もない、

 人が暮らす最低限の基盤すら施されていない地だった。


「まあ、こんなものだよな」


 辺りを眺めつつ、持参した非常食とお茶を飲み下すうち。

 散策中めいた年配者が通りかかり、軽く雑談をかわした。


 夢の場所を求めて、ここに辿り着いた——と話したところ。


「では、あなたが造られたらよろしい。
 ここは私にも縁がある場所。力を貸しますよ」


 という流れになり。

 更なる月日をかけて。


 その者はとうとう——

 夢で見たような場所を、造り上げた。



「……それでは、この世の『楽園』との呼び名も高い、リゾート開発をされた——さんにお話を伺いたいと思います!」


 取材に訪れた女性リポーターの声を聞きながら、その者は困ったように後頭部をかいた。


 ……『楽園』を、探していただけで。

 造るつもりは、毛頭なかったはずなんだがなあ……。

5/1/2024, 6:59:52 AM