300字小説
救いの女神
それは『夢見る心』を貪る魔性だと言われていた。古くは刀や筆……現代はパソコンやスマホに宿り、持ち主を『一度だけ』成功させてくれる。大概の者はその『一度だけ』の不相応な体験が忘れられず、自ら破滅の道に行き、進んで貪られるという。
「その魔性の宿った万年筆を私も使ったことがあるよ」
二十代で大ヒットを飛ばし、その後、鳴かず飛ばずで『一発屋』と揶揄されている小説家の叔父が笑う。彼は今も地道にネットで小説を書いている。
「どうして叔父さんは貪られなかったんだ?」
「熱心なファンがいたからかな?」
大ヒット作を『らしくない』と言い放ち、『叔父』の作品を求めてくれたファンが。
叔父の眼差しの先で叔母がにこりと笑んだ。
お題「夢見る心」
4/16/2024, 11:55:09 AM