椋 ーmukuー

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今日も朝から冷え込んで、ようやく秋の訪れを感じた。それでも私は毎朝始発で学校に向かう。7時半過ぎ。先生が出勤する時間。トイレに行くことを口実に職員室に入る前の先生を狙って演習室から出る。

「おはようございます、佐藤先生!」

「おー、工藤か。おはよー」

別に何も期待はしていなかったけど、じーっと見惚れていると、先生は私の頭をわしゃわしゃと撫でた。職員室に入っていく先生を見届けて今日も新しい1日が始まる。

佐藤先生は英語の先生で入学した時に一目惚れした。私はあれからずっと先生の所に通いつめている、いわば古参のようなものだ。


「号令よろしくー…はい、お願いしまーす」

チャイムと同時に入ってきた大好きな先生の授業を今日もしっかりと受ける。授業が終わると本当はわかるけど、馬鹿なフリをして

「先生、分からない所があって……」

「ん?あぁ、放課後進路指導室に寄ってけ」

毎日のように約束をする。放課後は決まって先生より早く指定場所に向かう。部屋に入って淡いピンク色のリップを丁寧に塗る。前髪を整えて金木犀のハンドクリームを手の甲にのばした。

「お、工藤。相変わらずはぇーな。んじゃ、早速。どうぞ」

「ここなんですけど……」

そう言って丁寧に説明を受ける。向かいに座る先生のいい匂いが香って心臓が張り裂けそうな程脈を打つ。

「よぉし。これで大丈夫だろ。んじゃ気をつけて帰……おい、工藤。離せ」

先生の足に私の足をガッチリと絡め、私はにこやかに続ける。

「先生。私、本気で先生の事好きなんです。毎日恒例の告白させて下さい。いつもみたいにお話もしたいです」

「ったく、懲りねえ奴だよな、工藤も。俺は職業上断ることしかできねーっつーのに」

「先生じゃなかったら付き合えてたって事ですか?先生を辞めるのは難しいでしょうから成人したらすぐに告白しに来ます!その時は……あでっ」

「アホか。教師をむやみに口説くもんじゃねぇよ」

「でも、私は先生だから良くて…他の人なんか視界にも入らないし、本当に大好きです。本気で…本気で」

「工藤……」

「先生との孫の代まで想像しちゃうんですっ!!!」

「そういうとこだ、アホ。まぁ、工藤みたいな奴が嫁さんになってくれたら毎日楽しそうだけどな笑」

「しぇんしぇ〜…やっぱり結婚したいです!そこをなんとか」

「無理だ。もっと同級生とアオハルしてろ」

立ち上がって出ていこうとする先生の袖を少しだけ引っ張る。ずるいなとか思うけど、こういうやり方じゃないと先生を引き止められないのは馬鹿な私にもわかってるから。

「……。わーったよ。ほら、来いよ」

腕を広げる先生の胸に飛び込んで顔をうずめる。先生の優しくて男らしい匂いに満たされて抱きしめてくれる先生にこれでもかってくらい甘えた。

「それ、俺が金木犀好きって言ったからつけてくれたんだろ?」

「先生じゃない他の誰かのためになんてつけません…先生専用の私ですから」

「なんだよ、それ笑 案外可愛いとこあんのな、工藤」

せっかく整えた髪もまたわしゃわしゃと撫でられて崩れてしまう。年の差とかいう時間のハンデは私が思っていた以上に苦しい。大人の余裕にいつも負けちゃまう私は昨日よりまた先生のことが好きになった。

題材「秋恋」

10/9/2025, 11:17:16 AM