名無し

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   どこへ行こう



ルームシェアをしていた同居人が死んだ。
居眠り運転のトラックが突っ込んできて、即死だったそうだ。

同居人は裕福な家庭に生まれた一人娘だったようで、葬儀は大きく執り行われた。

同居人の葬儀では、彼女が随分と慕われていた証拠にハンカチをびしょびしょに濡らすくらい泣いている人が多くいた。

相変わらず人望の熱い奴だ。
そう思いに耽りながら引っ越し用の段ボールをガムテープで封じる。

ルームシェアをしていたこの家は大学生2人が住むにしては豪勢で、そこに住むという行為は同居人が半額以上家賃を出してくれていたこそ成り立っていたものだった。

だから、金欠な大学生の私にその家賃を払えるはずもなく、私にはその家から出て行くという選択肢しかなった。

この家から私の通う大学へは少し遠いと思っていたところだし、これを機に大学近くのアパートに引っ越すか。

でも、同居人がお気に入りのバーもあるし、大学生の味方の安いファミレスもある。

いきつけの居酒屋も……、


……ああ、うざったいな。

そこもかしこも君との思い出で溢れているのに君だけがいない。

どうしよう、もう私はここには住めない。

もう、どこにも住めない。

私は、次から誰のもとに帰ったら良いんだろう。

家に帰ったらやけに美味しいカレーを作って待っている君はもういないんだろ。

ファミレスでドリンクバーを飲みながらレポートを手伝ってくれる君も。



私の生活に溢れていた君がいない、そうわかった瞬間目の前がぼやけた。

そっか、もうあくび混じりのおはようも、疲れた果てたただいまも、活気に満ちたいってきますも聞けないのか。

もう、何も、聞けないのか。

瞳から溢れた雫が、静かに私の頬を濡らした。


4/23/2025, 10:50:57 AM