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【向かい合わせ】(300字)

 彼の心は歓喜に震えていた。これまでの自分は、相手の背中を追うことしかできなかった。だが、今日ついに、向かい合わせで挑めるところまできたのだ。
 相手は厳しい眼差しで、量るようにこちらを見ている。その瞳に、まぎれもなく自分が映っている。ここまで来られたのは、彼がなりふり構わずその背中を目指して追ってきたから。さあ、いざ尋常に――
「結婚してください!」
 彼女は表情を崩すことなく身を返し、背後にいた年配の女性に声をかけた。
「店長、例のストーカーです。警察呼んでください」
 三十分後、コンビニエンスストアから引きずり出された彼が狭い部屋の中で厳しい眼差しの男たちと向かい合わせになったのは、言うまでもない。

8/26/2024, 12:52:00 AM