ノブメ

Open App

「久しぶり、お元気ですか

もうすぐ一年になりますね
あなたが東京に行ってから
我が家はだいぶ寂しくなりました

不景気で気を抜いていられないので
お父さんは定年後も会社で雇ってもらうことになりました
おかげで、私はずっと家では一人で家事をしています

イチローは散歩の時間以外はずっとお昼寝だし
スミレも夜にならないと帰ってこないので
お家はとても静かです

東京はどうですか?
こっちよりは暖かいと思うけど
何をするにもお金はかかるし
それに、子供の頃から人見知りで優しい子だったから
上手くやれてるか心配になります

余計なお世話かな?
『うるさいババァ』って思うかもしれないけど
いつまでも世話を焼かせてくれたら嬉しいな

お父さんも、前と同じでずっとムスッとしてるけど
あなたが家を出た月は毎日あなたの事を話題にしてたし
今でも三日に一回はあなたの事を聞いてきます

でも、お母さんにも何も教えてくれないから
少し心配です

疲れたら、いつでも帰ってきていいからね
イチローもあなたの散歩じゃないと物足りないって感じなの」

休日の朝、携帯に届いたメッセージ
別に汚いわけじゃないけど、人を呼べない程度には片付いていない部屋

滲んで少し見えにくい返信欄

震える指で、熱くなった頭の中を文字に起こす

「お母さん、私…」

***

「−街へ−」

1/29/2023, 9:41:06 AM