短編 「涙をみたことがない」
作 余白
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※登場人物
⚪︎私(物語の語り手)
⚪︎彼(私の最も好きだった元恋人)
⚪︎その人(私の現在の恋人)
「本当に、はーちゃんは泣かないよね」
ふと彼の言葉が頭をよぎる。
今頃、どこで何をしているのだろうか。
記憶の中の黒髪が揺れ、夏の夜の香りと湿度が肌に張り付く。あの夏の夜以降、彼にまつわる一切は遠く離れて私の元から消えた。
私は、弱さを見せるのが極端に苦手であった。
それが彼をひどく不安定にさせた。
「結局はーちゃんにとって、僕はその程度なんでしょう?」
私を責める刃だと思っていたあの言葉も、今思えば彼の必死の歩み寄りの一つだったと考えられる。
「弱さを見せて」という、彼の本心にたどり着くまでには長い長い時間が必要だった。
幼く、若く、快活であった私は、思慮深く、控えめで依存心の高い彼の良き理解者にはなれなかった。
誰に見せるわけでもない私の涙は出るところを忘れ、いつしか枯れていった。
努力も虚しく、彼の前で崩れることは二度となかった。立ち上がれなくなり、ドロドロに溶け、あなたに救われてしまいたかったのに。
それができない弱さに、浅い笑みを浮かべて絶望した。私はいつ、誰になら涙を見せられるのだろう。
𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄
「僕の精神の安定している時でお願いします」
その人は実直な言葉だけを発する人であった。
口から出る言葉に装飾はなく、それは時に距離や痛い事実を含んでいた。やけに楽で心地がよい、自然体とはこの事かと私は初めて他人に気を許した。
自らの欠点を進んで開示する程に、その人にに対する自己開示に躊躇がなかった。
布団の中で足を擦る。冷えた足は二度と体温を取り戻さない。私はいつか、涙を見せられるのだろうか。
私の愛するその人に、涙を見せることができるのだろうか。崩れ落ち溶けていき、そこから救い出してもらうことに戸惑うことなくありがとうを言えるだろうか。
体温を分けてもらったおかげで少しだけ温まった足先に愛情を感じながら、この夜が長く続けばいいとそう思った。
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みなさんこんばんは、余白です。
今日はやけに冷え込んでいますね‥
お身体お変わりないでしょうか?
もう週末なのですね‥!なんだか日々があっという間で、、驚いています。
それに2025年が始まってもう三ヶ月が過ぎたなんて‥!
気づいたら半年が経過してしまいそう。
素敵な夜をお過ごしくださいませ。
それでは、また☽⁺。゚
3/29/2025, 2:07:02 PM