蜩ひかり

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 先日雨が「私は酷使されすぎだ」などと言って嘆いていたが、わたしに比べればどうという事はないだろうと思う。むしろ雨が働いている間なら空が曇ってわたしは休めるのだから、あいつの事はどんどん酷使してくださって結構だ。

 わたしは星である。
 しかし機嫌が悪い時も当然あるので、勝手に輝かせるなと思う。そういう時に見えるわたしの輝きは、大体苛立ちを燃焼させたものである。勝手に流すのもやめてほしい。人間たちはなにか勘違いしているようだが、天の川も銀河も流れるプールではない。
 だいたいあいつらが無駄に水っぽい名前をしているから、わたしがゴムボートよろしくどんぶらこと流されるはめになるのである。その状態で願いをかけられたって叶えている余裕など当然ない、わたしは神などではないし、天の川も銀河もけっこう激流なのだ。流されたわたしはいつも溺れかけ、結局溺れてぶくぶくと沈んでしまうので、地球からは流れ星が燃えつきて消えたように見えているらしい。
 ロマンチックに見えるかもしれない。
 しかし、わたしはそのとき銀河の底で救助を待っている。

 とにかく、もう星なんかやめだ。やめである。
 わたしは休暇がほしかったので、急遽星の代役オーディションを開催することにした。
 とりあえず輝いたり瞬いたりできればなんでもいいだろう。募集、いい感じの光源。

 最初にやってきたのは間接照明だった。
 いや……ロマンチックさやお洒落さは星的な水準を満たしていると思うのだが、ちょっと輝きが弱くないだろうか? この世を照らしてやろうという気概が感じられないし、第一宇宙空間でどこに光を当てるつもりなんだお前は。そのほんわかした灯りが何百光年も先まで届くと思っているのだろうか。お帰りいただいた。
 次にやってきたのは信号機だった。
 いや……赤と黄色と青に輝こうというのだろうか? 単色であればそういう芸風の星もいるので別に構わないと思うのだが、規則正しくこの三色に輝いてしまったら、もうそれは絶対信号機だろう。信号機は自分の個性を甘く見積もっているらしい。ひょっとしたら人類を交通整理するつもりなのかもしれないが、奴らは交通ルールを守らない。お帰りいただいた。
 最後にやってきたのは打ち上げ花火だった。
 いや……芸風的にはかなり近い所にいるかもしれない。輝いたりするし、瞬いているといえなくもないし、願いをかけられることもあるだろう。宇宙にあがる花火なんていかにも人間たちが好みそうだ。しかし奴には致命的な欠点がある。お前、夏しか真面目に働いていないだろ!
 え? 他の季節は暇だから去年の貯金がもうなくなったって?
 知るか! 計画的に使え! お帰りいただいた。

 はあ、こんな事で怒っていたらまた輝いてしまった……自分の美しさが憎い。
 今日は全国的に曇りまたは雨なので、つかの間の休暇を楽しむとしよう。雨がぐちぐち言っているのを眺めながら、わたしは人目を盗んで銀河のほとりに寝転ぶのだった。
 

(星)

3/12/2025, 6:20:51 AM