彼は決して、その場を動くことはなかった。
北の地の八男として産まれた彼は、首都に住む
著名な教授に買われた。
似た境遇の先輩であるジョンとエスの世話になり
彼はとても幸せであった。
しかしそんな満たされた生活が長く続くことは
なく、教授は僅か1年足らずで急死してしまった。
彼は、多方に引き取られては問題を起こし
時折逃げ出しては、教授といつも行っていた場所で
教授を待っていた。
美しく白い彼は、そんな日々に身体を汚し
時には心無い人々に苛められもしたが
主人を待つその姿に心打たれた人に
愛されもした。
だが本当に愛されたかった人が
彼の前に現れることは決して無く
10年の月日が流れた。
彼はその身に病を患っていた。
寄生虫に蝕まれ、肺に水も溜まり
襲われた片耳はしなだれるように閉じていた。
ある日、彼はいつもの場所から離れた所で
事切れていた。
誰にも看取られず、本懐も果たせず
晩年周りに慕われるようになっていたが
最後は孤独な死を迎えた。
人々はそんな彼を想い
いつもの場所に銅像を建てた。
決して動かない忠犬ハチ公。
嵐が来ようとも。
7/29/2024, 8:16:22 PM