自分が置かれている状況を「しがらみ」と表してしまうと、係る言葉に「断つ」が連想されてよろしくない。断たないという選択がまるで不本意なもののように思われかねないからだ。傍から見れば理不尽であっても、自分にとって憎い相手など一人もいなかった。言い換えれば断捨離の失敗、でもある。何も捨てられないままこの歳まで来て今更、全てを捨ててでも結ばれたい相手と出会った。愚かで浅はかだとわかっていても、手放すことはついにできなかった。縋りついて胸の中で懺悔すれば、その相手はまるで「知ってた」と言わんばかりにため息をつく。自分の背中、心臓の裏から突き出た無数の線を指先が恭しくなぞる。たった一本垂らされた糸があまりに頑強で、そうして大人しく抱かれている以外何もできなかった。
(題:赤い糸)
7/1/2024, 5:49:41 AM