星座
この町の星空を見ていると落ち着く。急ぎもせず、慌てもせず、ただ静かにまたたくのが自らの使命だと心得ている。私たちにどう見られるかなんて、考えることもないのだ。
明日は私たち吹奏楽部の最後のコンサート。今年は地方のテレビ局が取材についていて、引退の瞬間に流す涙は「感動」として報道される予定だ。
「きれいだね」
隣で呟く声に、何が、とそっけなく訊いてしまう。
「星座。俺は北斗七星が好き。おおぐま座の一部」
「星座なんてこじつけだと思うけど。一つ一つの星のこともろくに知らないのに」
人間が一つ一つの星を知る術はない。調べている時間もない。だから強引に星座でくくって、綺麗だとか言って、わかった気になる。
「テレビ局のやり方が気に入らないのは俺もよくわかる。紆余曲折あったけどやり遂げた、って形で報道されたくないのは俺も同じ。実際のところ、頑張っていたのは君みたいな一部の人間だけだからね。いい演奏だった、なんて言われたくないんだろ?」
私は沈黙で答えた。
隣の友人は言葉を探すように、また空を見上げて、
「たしかに星のことは知らないけど、同じ星座の星どうしなら、お互いの内情を知っているかもしれない。人間だって、月や太陽のことはそれなりに知ってる」
視線を下ろすと、夜空のように静かな瞳があった。
「俺は近くで見てたから」
私は変なプライドを持っていたのだろうか。この空に比べたら、取るに足らない程度のプライド。
「うん。ありがと」
綺麗な瞳が微笑む。
近くにあるほど引力が働くというのは、しごくもっともな摂理だなと思った。
10/5/2024, 4:27:31 PM