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花束(オリジナル)(異世界ファンタジー)

リンクは闘技場の控室でイライラと歩き回っていた。
ドスドスと足を踏みしめるので、その都度頑強な地面が揺れ、椅子に座った軽量の仲間の尻が浮き上がっている。
(あいつ……!!)
怒りの元凶は、昨日まで仲間だった優男の事だった。

ここは巨大な塔の中でもキメラなどの混じりものが作られるエリアである。キメラを闘技場で競わせ、より優秀な個体を作り出そうという研究だ。
戦闘は何でもアリ。ズルさも知恵のうち。
そうして1000勝して生き残ったキメラは、褒美として牢を出て、自由を手に入れる事ができるのだった。
リンクは見た目はヒト族だが、竜とヒトのキメラで、刃を通さぬ頑健な身体を持ち、炎を自在に操った。
ソロ戦でなんとか生き残り、チーム戦になった時仲間になったのが、今部屋にいる男と、件の優男である。
部屋の男はレッジといって、見た目はヒト族。風を操り、逃げ足がとても速かった。
優男は人形のように綺麗な顔をした男だった。身体も指も細く、魔杖も持っていない。どこが強くてこれまで勝ち残ってきたのか不明だった。
けれど、彼の的確な作戦で、我々は次々と勝利をおさめていった。
ただの知恵者だったのかもしれないと思っていた矢先、1000勝目前の昨日の出来事である。
戦闘中、リンクが命の危機に瀕した時、彼が、とてつもない水魔法を、詠唱もなく瞬時に発動してのけたのだった。
対戦相手は水圧ではるか場外まで吹っ飛んでいった。
リンクは唖然とした。
ひ弱だと思い、散々彼を庇ってきたのに、魔法が使えるだと?
しかも特殊素材でできた闘技場の壁を粉々に粉砕するほどの威力だ。
(ふざけんな!!)
生き残るためのチームプレイなのに秘密があったこと、直接戦える能力を持ちながら全く戦闘に参加しなかったこと、色々問い詰めたかったが、すぐ牢に戻され、聞く機会がなかった。

そして、今日である。
なぜか彼が控室に来ない。
我々は奴隷のようなものなので、試合が嫌でも引きずって連れてこられるものなのだが。
我々にとっては今日が1000勝目の戦いであり、とても昂ってもいた。
と、そこへ、ノックの音がする。
扉から、見知らぬ男が現れた。
「お届け物です」
彼が差し出したのは、小さな紫色の花束だった。
1000勝はこれからであるし、祝いには早い。
花を贈られるような関係の人も、皆無であった。
「あ、どうも」
近くにいたレッジが花束を受け取ると、男はすぐに去っていった。
リンクはイライラしたままレッジに詰め寄ると、手中の花束を取り上げて、力一杯地面に叩きつけた。
「あー、ま、いっか。たぶん結果オーライ」
レッジがそんなことを言う。
リンクはジロリと睨みつけた。
「何よ!?」
レッジは小さな紙切れを指先でヒラヒラ揺らしてみせた。どうやら花束に忍ばせてあったらしい。
ムワリと何やら良い香りが鼻をくすぐる。
リンクが叩きつけた花束から、何かがたちのぼっていた。
「な、何これ」
「差し入れ」
レッジは指先の紙をくるりと回すと、差出人の名前をリンクに示した。


1000勝目をあげ、リンクとレッジは晴れて自由の身となった。
花束にはドーピング剤ともいえる効果が付与されており、花を地面に叩きつけた刺激によって成分が気化して身体に染みるよう仕掛けられていた。
ドーピングの効果は絶大だった。敵がスローモーションのように見えた。圧勝であった。
「リンクが花に八つ当たりするって、あいつ、読んでたんだなぁ」
レッジがしみじみと言う。
「うるさい!!」
結果としてその通りすぎて、リンクは頭を抱えた。
「結局、ライは何だって?」
花束を差し入れた優男について聞くと、レッジは首を横に振って、
「紙には何も。ごめん、1000勝を信じてる、としか」
「….あいつ、何者だったんだろうな」
チーム戦の500勝、ともに戦ってきた仲間だった。
とろくさくて、危なっかしくて、でも洞察力があって、頭が良くて、ちょっとオタク気質なところがあって。キメラの姿に偏見を持たず皆に平等で、交流が嬉しそうで楽しそうで、でも戦闘は苦しそうで。実は魔法がすごい人。
「これからどうする?」
レッジが答えのわかりきった事を聞いてきた。
「ライを探す」
「だよな」
レッジも笑顔で頷いた。

彼は大切な仲間だから。

2/9/2026, 1:43:32 PM