髪をあらかた乾かし終えて、冷凍庫から小さなアイスケーキを取り出す。皿にも載せずフォークを突き立て、さっそくひとくち食べた。
お風呂上がりでぽかぽかする身体に、口の中でふわりと溶けるクリームの甘さが心地よかった。
ダイニングテーブルの椅子に浅く腰を下ろす。斜めに座ったままでスマホを開き、トーク画面を出した。会話の履歴は十日前で停まっている。
番号はずっと変えてないから、これまでの会話がずっとここにあった。昔の手紙のやりとりも大学時代のチャット履歴も、視覚的な物は全部取ってあるって知ったら君は引くだろうな。
スマホが震え、画面が勝手にスクロールされて、最新の言葉を表示した。
『誕生日おめでとう!』
『ありがと。覚えてたんだ』
『既読はやっ』
語尾に、爆笑する絵文字。
『なにしてたの?』
と訊かれて、
『ひとりでケーキ食べてる』
と食べかけのアイスケーキの写真を送ると、しばらく間が空いてから下手くそなフォークのイラストが送られてきた。
『一口もらった!』
いつの間にか、君を好きでいる時間のほうがこんなに長くなっている。何年経ってもこういうところが好きなんだなと思い知らされるだけの時間。それは過ぎ去った過去であり、愛と平和の日々であり、平穏な日常に違いないのだろうけど。
『あ、ごめん。由那が起きた。由利はお風呂だからさ』
娘さん、また来てるのか。
『うん。行ってあげなよ』
『ごめんね。また連絡するわー』
改めて、お誕生日おめでとうのスタンプが届く。くだらないことを考えてスタンプの柴犬が滲むんでいく。
なにしてたの? って訊かれて、あんたのこと考えてたよとか、正直に言える私たちならとても良かったのにななんて、馬鹿なことを。
「……飲も」
先日自分への誕プレのつもりで取り寄せた紀州南高梅の梅酒を棚から取り出して、ロックグラスにだばだばと注いだ。
『過ぎ去った過去』『愛と平和』『平穏な日常』
3/13/2026, 6:37:51 AM