青いスーツケースを引っ張って坂道を登る。
雨は止んだけど、まだ灰色の重い雲がもくもくと広がっている。
また降り出すのだろうか。
「急がなくちゃ!」
今日からしばらく旅に出るのだ。
ずっと悩んでいた仕事を辞めて、南の小さな島へ滞在する。
この10年、これといった出来事もなく淡々と、でも矢のようにどんどん過ぎていく毎日。
ある意味しあわせな毎日。
誰に相談しても、辞めるなんてもったいないよ、その歳で辞めてどうするの?という答えだった。
でももう限界だった。
きつい坂道を登り切って着いたのは、少し開けた丘の上。
ここからは港がよく見える。
あの船に乗って、これから旅が始まるのだと思うと胸が高鳴る。
不安がない訳ではない。
私の選択は間違っているのだろうか?
旅から帰ってきたらどうなる?
ただの逃げなんじゃないのか?
そうやって不安を数えたらキリがない。
少しの間ぼんやりと港を眺めていたら、海の上に広がっている重い雲が切れ始め、雲間から一筋の光が海の上へ射しこんだ。
天からキラキラと、海上のその辺りだけ光で輝いている。
幻想的な光景に息を呑み、その瞬間、確信した。
「あぁ、きっとこの選択は間違っていない…!」
思わず天を仰いでありがとうと呟く。
そして勢いよく坂を降りて港へ向かった。
あの光の羅針盤が示す彼方へ出発するために!
1/22/2025, 1:55:20 PM