なつめぐ

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『届くことのない言葉』


ビルの屋上だからか、風が強く感じる。風になびく髪を押さえ、目線を動かす。屋上の端、パラペットと呼ばれる所に彼は座っていた。
近寄り、声をかけてみる。

「こんばんは」

彼が振り返る。その顔が少し歪められていて、思わずくすりと笑ってしまった。
彼の隣まで歩き、ビルの下を見下ろす。そこには、怪物と戦っているあの子がいた。物陰に隠れて心配そうに見ている彼女も。

「助けなくていいの?」

そう彼に問うと、彼は見てろと言わんばかりに顔を動かした。
そのまま見守っていると、あの子は新しい力を手に入れ怪物に勝ち、彼女の手を引っ張って扉に消えてしまった。
思わずヒューと口笛を鳴らす。

「勝っちゃった…さっすが」

彼を見ると、嬉しそうに口角を上げていた。

「なになに〜?教え子が強くなって嬉しいの?」

うりうり〜と彼のほっぺをつつくと、「辞めろ」と手を払われた。
そのまま彼は立ち上がり、後ろへと歩いて行ってしまった。私も慌てて立ち上がる。

「もう帰っちゃうの?」

彼はその問いには答えてくれず、ふっと消えてしまった。

「はぁ〜」

大きくため息を着いて、フェンスに寄りかかる。体重がかかり、カシャンと音を立てた。空を見上げると、月が淡い光を放ちながら綺麗に輝いていた。

「月が綺麗ですね」

無意識に口から漏れた言葉に、ハハと乾いた笑いが出る。絶対にこんな言葉、彼に届くはずないのに……。
空に浮かぶ月を目に焼き付けて、私は意識を閉じた。



【月夜】

3/7/2026, 12:44:14 PM