『いつまでも捨てられないもの』
いる。いらない。いる。いらない。あれ、懐かしっ。
そうやって思い出に浸って時間が過ぎてしまうのが私の部屋掃除のルーティーンと化していた。
初めは潔くいるいらないの判別が着くのだが、段々と集中できなくなってくるとゴミとなるかもしれないものに情が入る。
あ、懐かしい。これ、好きだったな。このクラスやだったなー。思い出は時に苦く、楽しい思いにさせてくれる。めのまえにはあ[いる]と書かれた箱と、[いらない]と書かれた箱。2つの箱の間に置いた[考える]と書かれた箱の3つが置いてある。[いる]の箱と、[いらない]の箱を足したとしても、[考える]の中身には到底抗えない程多くのものが入っていた。
それでも、部屋全体のものの量はそこまで変わらなく見えてしまう。まぁ、世の中もそんなものではないだろうか。こんなことを考えていたら、なぜだか鼻で笑ってしまった。
私はパーカーのポケットに入った煙草とライターをいつも通りの使い方で消費した。灰色の煙が部屋を充満させる。煙草を半分くらい使った頃、床に散らばった写真のネガをみた。現像されたら使われる事は二度と無い。私はこの鎖のような物体にライターで火をつけた。
じわじわと燃えていくネガを私は目に焼き付け、「さよなら」と口にすると燃える鎖から手を離した。鎖から鎖へ、炎が移っていく。大きくなる鎖に身を包まれた私は、[いらない]と書かれた箱に入り目を閉じた。やっと部屋掃除が終わりそうだ。
𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄
2025年―月―日。
とある女性が燃え殻になって見つかった。アパートのとある一室での出来事だ。彼女はそのまま息を引き取ったらしい。
あの部屋にはネガと有機物しか残っておらず、遺書も残されていないため、自殺とも他殺とも捉えることが出来なかった。なので、警察はこれを事故死だと断定し、この事件は終わりを迎えた。新聞などにも掲載されなかった。遺体は司法解剖に回される訳もなく、そのまま火葬された。現場で燃え残った写真のネガには、たくさんの人々の写真が閉じ込められていた。
本人の顔がわかる写真は、彼女がバイトをしていたコンビニの履歴書しかなかった。彼女はここで、何をしていたのだろうか。
私が、この人の人生を知りたくなった。
8/17/2024, 12:05:34 PM