川柳えむ

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 水が入っているコップを床に落とした。
 飛び散る破片。流れ広がる水。
 拾う前に、私は、喉が渇いている。
 水切りラックから、逆さに置かれたマグカップを手に取り、蛇口を捻った。
 水が出ない。
 なんでなんでなんで。
 喉が渇く。部屋の空気がジリジリと熱を増していく。砂漠のようだ。
 水が出ないなら、この床に広がる水を飲むしかない。ガラスの破片の混じったこの水を。
 ただただ水が飲みたい。その一心で。
 そうして、床に手を伸ばした。

 そこで目が覚めた。
 熱帯夜。喉がカラカラだ。
 起き上がり、台所に行く。
 蛇口を捻ると、ちゃんと水が出る。
 私は安心して、マグカップに水を汲んだ。


『マグカップ』

6/15/2025, 10:34:13 PM