ピンポーンと呼び鈴がなった。
インターホンを確認すると、暗い顔の彼女がいた。
僕は慌ててドアを開けて彼女を家に招き入れる。
「どうしたの? 何かあったの?」
「雨が降ってたの」
そう言う彼女の頬には涙の跡が。
空はどんよりしてるけど、天気予報では雨の心配はない。
さっき外に出た時も雨の香りすらなかった。
……彼女は嘘をついている。
だけど、彼女が言いたくないなら無理に訊く必要もないはず。
僕にできることは彼女を優しく抱きしめることだけ。それしかできないことに歯がゆさを感じるけど、彼女は僕を選んでくれた。それだけで充分さ。
「……何も訊かないの……?」
「……雨が降ってたんでしょ? ここなら大丈夫だから思う存分に雨宿りしてね」
そう言うと彼女は僕の胸で声を押し殺して静かに肩を震わせる。
……とても辛いこと、とても悲しいことがあったのだろう。
こうして僕に伝えられないくらいに。
だからせめて今だけはたくさん泣いて、君の心が落ち着いたら改めて僕に教えてほしい。
そうしたらその時は一緒に雨に降られようね。
6/19/2025, 1:15:48 PM