ちどり

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「正直、勝ち負けなんてどうでもいい」

そう思える日が来たら苦しまないのに。
そういえば、練習試合で初めて会った時も、一番楽しんでいたのは彼だった。

「勝負している間の、互いに本気でぶつかり合っている瞬間が楽しいんだ」

そうハッキリ言えてしまう君が羨ましい。
でも僕の喉は暑さで張り付いて、本音を言わせてくれない。その代わり、熱気を吸い込んで口を開く。

「でも、勝負の世界はいつも残酷だ。
 誰かが勝って、勝者だけがその先に行ける」

その楽しい時間を長く続けるため、勝ちを追い求める必要がある。

僅かな抵抗で返した苦し紛れな言葉に、彼は太陽のような笑みを浮かべた。

「そうだね。だから、お互い楽しい時間を追い求めよう。決勝まで」

僕の両肩を叩いた手は力強く重たいもので、限界を迎えつつある僕の腕が、悲鳴を上げた。

多分、僕は次の試合でこの夏の戦いは終わってしまう。

「ああ、決勝まで」

強がりでそう返すのが、今の精一杯だった。

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「夏の勝負」
⊕勝ち負けなんて

5/31/2025, 2:08:21 PM