目が合うと時が止まったように、お互い見つめ合った。
先に彼の方が我に返り、ずんずんと近付いてきた。
「もしかして……ゆう?」
彼は驚きで目を見開きながらそう言った。
彼とは小学校以来だった。
僕の通っていた学校に彼は転校してきた。
黒いランドセルの肩紐をぎゅっと握りしめて彼は笑顔で挨拶をした。
僕の隣の席に座るよう、先生が促した。
彼はランドセルを下ろしながら、よろしくと声を掛けてきた。
「よろしく!何かわからないことがあったら聞いて!」
僕は、慣れない環境で勝手がわからず困るだろう彼を支えようと、誰に頼まれた訳でもない使命に燃えていた。
彼は「うん、ありがとう」と返してきたが、
それから1週間、彼は僕の手を何も借りなかった。
僕は彼の姿を無意識に目を追っていたが、先生に聞いている姿さえ見なかった。彼は慣れた様子ですぐに馴染んで行った。
休憩時間には僕らと遊ぶが、放課後に誘っても彼はのらりくらりと誘いをかわした。そんな時、彼は決まって同じような笑みを浮かべた。その笑みは壁となり、彼が扉を閉めるのが見えるようだった。
僕は彼の内側に入りたくて躍起になった。どこかミステリアスでカリスマ性のある彼に近付けたら、僕も特別になれそうな気がしていた。
彼が登校したら真っ先に声を掛け、目が合ったら手を振り、休憩時間も彼を誘い、放課後も諦めずに誘い続けた。
次第に、一緒に登校するようになり、放課後もたまに遊んでくれるようになった。
相変わらず、1歩引いたような笑みだったが、彼との距離は少しずつ近付いていた。
そう思っていたのに。
いつもより少し遅くまで一緒に遊んだ次の日から彼は学校に来なくなった。
転校した、と告げる先生の声が遠くの方で聞こえた。
(テーマ:突然の別れ)
5/19/2024, 11:11:45 AM